銘輪録

ADHD持ちの40代の思いの丈発散ブログ

2017年3月27日稀勢の里の事とか

大相撲三月場所。13日目、全勝をひた走っていた横綱稀勢の里は同じく横綱日馬富士との取り組みに臨んだ。日馬富士は既に優勝戦線から脱落し、新横綱稀勢の里が全勝を守るかどうかに関心は高まっていた。全勝の稀勢の里と優勝争いをしていたのは大関照ノ富士で、日馬富士の弟弟子であった。兄弟子の立場から当然「援護射撃」をしてやるという気持ちもあったと推測できた。立会い。日馬富士は自身「最高の立会いだった」と自画自賛したとおり真正面から素早く稀勢の里に当たり、稀勢の里はその勢いを止めることもできず一気に土俵の外へと出されてしまった。黒星がついた、というだけであったらまだよかった。しかし、黒星以上にショッキングな事態へと発展し、「嘘…」と絶望的な気分になったのは、土俵の外から下に落ち、起き上がった稀勢の里のが顔を歪めながら右手で左手を抑えている映像が映し出されてしまったからだ。なかなか起き上がれずとにかく痛そうな顔。NHK総合テレビの実況アナウンサーは「こんな痛そうな顔をする稀勢の里を見たことがありません」と繰り返し言っていた。横綱に上りつめて初めての場所、人が変わったみたいに横綱らしいどっしりとした相撲を見せてくれていた「全勝優勝」という偉業も見えていた時点でのアクシデントなだけに、放送席も会場も「大変なことが起きた」という雰囲気がテレビからでも伝わってきた。後のニュースで稀勢の里は救急車で病院に運ばれたと知り、さらに「休場」のふた文字が頭をよぎった。翌日、14日目。稀勢の里は土俵に立っていた。左肩から上腕にかけてテーピングされている姿は痛々しく、「無理して欲しくない」という気持ちにさせるには十分な出で立ちであった。師匠の田子ノ浦親方はインタビューで「本人が出れるというんだから」と不安そうに記者たちに話をしていた。この日の相手はやはり同じ横綱鶴竜。かれも黒星を重ねていて優勝争いから脱落していた。そんな稀勢の里鶴竜の取り組みの前に会場が騒然となる事態が起こった。稀勢の里と1敗で並んだ大関照ノ富士と今場所大関を陥落した関脇の豪栄道との取り組みだった。9勝していた豪栄道はあとひとつ勝って星を二桁に乗せると大関復帰が叶うという重要な一番であったし、照ノ富士にとっても負けられない取り組みであった。この一番に僕はワクワクしていた。両者がガツっとぶつかり合って勝敗を争う場面を想像していた。たぶん、会場のお客さんもそうだったと思う。「いい相撲が見られる」という期待感。が、照ノ富士は立会いの瞬間右に飛んで変化した。突っかかっていた豪栄道はそのまま土俵の外へと。あっけない終わり。僕は思わず近くに置いてあった箱を蹴ってしまった。大関が関脇の挑戦を真っ向から受け止めない、とにかく勝ちにこだわった相撲に嫌悪感しかなかった。場内のお客さんからはブーイングの嵐だった。1敗を守った照ノ富士を土俵下で見守っていた稀勢の里鶴竜の取り組みもまたあっけなかった。立ち会って両者組み合った瞬間、稀勢の里は力なく寄り切られてしまった。「やっぱりダメか……」と失望感を持つと同時に「休場してほしい」という気持ちは強くなった。しかし、千秋楽、稀勢の里は土俵に立っていた。この日の相手は優勝争いの相手は大関照ノ富士である。土俵入り。稀勢の里はいつも通り出場してきた。左肩のテーピングは昨日よりはその面積が狭くなっていたのを見て「昨日よりはいいのかな?」と思ったものの土俵入りで見せた柏手の音が力なく、NHK総合テレビの解説だった北の富士親方も「小さいね」と心配そうに言っていた。たぶん、優勝は照ノ富士だろうを大方は思っていただろう。「とにかく無事に。大事にいたらないように」と。千秋楽は序二段と十両は優勝決定戦となり、ことさら十両は三つ巴戦となっていて、幕内の取組は30分くらい遅れての開始となった。取組は順調に進み、「これより三役」へ。今場所全勝を並走していた弟弟子の高安も勝ちで終え、いよいよ千秋楽の結びの一番を迎えた。照ノ富士はもはやハンターのような目付きをしていた。昨日の非難の嵐を浴びてまで勝ちにこだわった彼は「勝つこと」しか考えてないような雰囲気があった。立会い。照ノ富士が合わせられなかった。これを見て照ノ富士は前のめりになっていると思った。それよりもその「待った」で稀勢の里は右に変化する姿勢を見せていた。手の内を見せたような具合になってしまったと僕は思った。が、稀勢の里にはそんな事は関係が無かった。仕切り直し。バッとぶつかり合って相撲は忙しい内容になった。僕はとにかく「頑張れ!頑張れ!」と稀勢の里に向けて大声をぶつけた!稀勢の里は自分の身体の使える部分をフルに使って照ノ富士の攻撃に凌ぎ右手でぐいっと下へ照ノ富士を押し込んだ。照ノ富士はあっという間に土俵に叩きつけられた。この瞬間、稀勢の里照ノ富士は12勝2敗で並んだ。優勝決定戦へと勝負は持ち越された。ものすごい相撲を見せてもらったという満足感で自分の身体は満ち満ちていた。稀勢の里に「優勝してほしい」という気持ちと「ここまで頑張ってくれてありがとう。無理しないで」という気持ちが混在していた。そして、優勝決定戦。ここでも立会いが合わなかった。とにかく照ノ富士は「勝ちたい」という気持ちが表に出ていた。一方の横綱は平常心。「今、できる事」を考えているようにも見えた。  立会い、稀勢の里は諸手突きで照ノ富士を突き放して中に入り右手で抱えて小手投げに回転させながら土俵際へ追い込み両者が倒れこみながら稀勢の里が落下に耐えて照ノ富士が先に土俵に落ちて行った。行事はすかさず稀勢の里に軍配を上げた。物言いは付かず稀勢の里の勝利が確定、稀勢の里の優勝が決定した。この信じられない展開に僕はこの上なく興奮した。自然と涙が溢れてきた。たった3日間でこれまでドラマティックな展開があっただろうか?稀勢の里といえばその実力はいつ横綱になってもいい力士だった。でも、ここぞという時になると星を落とし横綱昇進のチャンスを逃し続け、大方は「稀勢の里の精神力の弱さ」の認識を持っていた。そんな彼が横綱になったら、人が変わったように(繰り返し言ってしまうが)いい相撲を取っていた。アクシデントに見舞われても休場せずに「できる事」を考えていた上半身がダメなら下半身を使ってと稀勢の里は戦後のインタビューで答えていた。「横綱」の責任を全うするという気力と応援してくれる人、スタッフ。ひとりでここまで来れたわけではないという気持ちもあったかもしれない。その責任感を表現できるのは土俵上のみであり、結果を残す事なんだと稀勢の里の姿を見て改めて思わされた。表彰式、君が代の合唱の時、稀勢の里は男泣きを見せた。どれだけ苦しかったんだろうと彼の心中を察してまた涙が込み上げてきた。相撲でこんなに感動させてもらった事があっただろうか?春の冷たい雨が降る中、家で一人満足感に浸って夜を過ごした。稀勢の里の勇気に感謝。しっかり治してまたいい相撲を見せてほしい。

 

追記

3月27日放送の読売テレビ制作のテレビ番組「ミヤネ屋」に置いて稀勢の里のお父さんが登場してインタビューに答えていた。宮根さんの稀勢の里の相撲の質問に対してお父さんは実に専門的な受け答えし、スタジオにいた舞の海さんも舌を巻くという場面があった。